八卦刀の作り方~中国武術練習用木刀の製作

なにせ「実用木工シリーズ」ですから、刀といっても練習のためであって工芸品のようなものを目指して作ったわけではありません。もちろん誰かを攻撃するためでもありません。あくまで練習目的としてまず自分用に一本作りました。刀作りはかなり大変な作業です。延べ30時間以上かかりました。

※八卦刀、二本目ができました。

で、製作した木刀というのは、八卦刀です。八卦掌の武器術で使われる刀で、八卦大刀などと呼ばれることもあります。形状は柳葉刀や青龍刀とおおよそ同じですが、柳葉刀より長く重い刀です。ジュラルミンやアルミなどの金属製の模擬刀は売られていますが買うと3万円前後はするし、金属製の刀を公園で振り回しているとなにかとマズいです。一方普通の日本刀の木刀はすぐ手に入るけれど短いし軽すぎる。で、木製八卦刀を作ることにしました。

ポイントはいくつかありますが細かい仕様は都合上明かせないので概略を。
・長さ :身長に合わせてになりますが、大きいもので130cmを超えるものもあるそうです。ただ私の背丈からして130cmだと扱えないのでもう少し短くしました。
・重さ :これが今回難題の一つでした。重さを出すために、材料の木材選びが重要になります。
・バランス :もっとも重要で調整が難しいポイントです。八卦刀は片手で扱います。重量バランスを誤ると手首などの故障の原因になります。

 

<<作り方>>

(1)設計と原料の木材の選定
繰り返しますが、木工でははじめに完成イメージ図を描くことと設計が大切です。
ネット上に柳葉刀や青龍刀の写真がたくさんあるのでイメージはこれでいいでしょう。なにせ練習用ですから。
さて、一般的な日本刀の木刀は約80cm前後で重さが400g~500g。たいして今回製作した八卦刀は最終的に1403gになりました。通常は1.1kg~1.3kgくらいだそうです。今回は設計段階で「てこの原理」の考慮を失念したため、当初予定より重くせざるをえなくなり、予定より300gくらい重くなってしまいました。
設計上のポイントは、全長を決めたら柄と刃の重量バランスをとることです。
八卦刀の部分ごとに体積を計算し、材料に使う木材の比重と掛け合わせて重量概算を計算します。
そして「てこの原理」を考慮しつつ柄の部分と刃の重量バランスを整えます。このとき木材材料だけではバランスがとれないので、最終的にはオモリで調整することになります。設計段階で、このオモリの重量も想定できたほうがいいです。
重量バランスは工作段階の削り作業で調整できるので、設計段階では少々おおまかでも構いません。

おおよその設計が決まったら、それに合う木材を探します。
今回使ったのはイぺ材です。比重が1.1前後ある重い木で、ウッドデッキ用として販売されていたものをネットから購入。
ほかに重い木材として、ウリン(0.92)、アマゾンジャラ(1.1)などがあります。やはりこれらもウッドデッキなどで使われるようです。一般的な木刀は樫の木(アカガシや白樫。白樫で比重が約0.83で、これも重さ堅さはありますが、イペにはかないません。

(2)木材の切り出し
木取りをして墨付けし、写真のように、部材を切り出します。イペは切る時にかなり細かい粉塵がでますが、吸わないほうがいいそうです。形はあとの削り作業で形を整えていくので、おおまかでも結構だと思います。
挽きまわしノコがあればそれでも作業は可能です。これなら粉塵はあまり出ません。

(3)組み立て
部材の構成は台所の包丁を参考にしました。刀身に鍔を通し、刀柄には木工用ボンドで二枚の板を貼りあわせて厚みを出します。クランプを使って圧着し、一晩乾燥させます。木工用ボンドは圧着すれば強力な接着になります。
これに加締(鋲)をうちます(普通のダボでOK)。もちろん先に打ってもいいですが、難しいので私は貼りあわせてから予備的に打ちました。

(4)研削・調整
ここからが大変です。
組み立てて原型ができたら、削っていきます。形状は八卦刀らしく、柄は握りやすく、そして柄と刃の重量バランスをとるようにします。削っては重さを量り、とやりながらひたすら努力です。姿勢よく、作業場を整えてやりましょう。
まず大雑把に電動ジグソーで削り、切り出しナイフで整えていきます。途中粗いサンダーなども試しましたがイペは堅くてたった数グラム削るのも難儀なため、ジグソーかナイフでやりました。堅い分、土を削るような感覚で削れるので、綺麗にできます。切り出しナイフは良く切れるものを用意しましょう。また、手袋(滑り止めゴムがついているもの)は木工には必須です。中年で肌もカサカサになると物が掴めなくなるので余計必要です。
ジグソーは本来細かく削るための道具ではないので、使い慣れていないと怪我をします。気を付けてください。

(5)調整
目標重量になるまで削ったら、紙やすりなどで綺麗にします。
そして柄の部分にオモリをつけてバランスを整えます。
オモリは、オーディオ機器の振動防止用の鉛を使いました。これハサミで切れるし、粘着テープ付です。
これを巻きつけて完成です。片手で振るので、オモリは邪魔になりません。
仕上げは刀全体に家具用オイルなどをあてます。なければエキストラバージンオリーブオイルでも可。
そしてグリップに好きなテープを巻きます。ラケット用のグリップテープを使いました。

八卦鶏爪鴛鴦鉞の製作過程はこちら

この刀の型(套路)の映像(私が学んでいる孙志君先生の八卦掌)